進化せよ!

      2019/04/21

 人には恒常性(ホメオスタシス)と言うものがあります。

 体温を保ち続け、ケガをしたら修復し、病原菌が進入したら免疫システムが病原菌を攻撃し、常に健康で安定した状態を保とうする力のことを恒常性といいます。

 ですから、僕たちは恒常性のおかげで健康な身体で生きていけるのです。

 人間関係の中にも、生活の行動パターンにも、恒常性があります。

 そのため「変わりたい」と言いながら、変わろうとしない人がいます。

 安定したパターンは、今まで通りを維持すればいいので「緊張」や「不安」を感じなくてすみます。でも、新しいことへのチャレンジは「緊張」や「不安」がつきまといます。だから、人は「変わりたい」と言葉で言っても、新しいことに挑戦することには不安や戸惑い、さらに緊張がともないます。

 野球選手が投げるフォーム変えたり、ランナーが走るフォームを変えると一時的に、前よりも結果が悪くなる時があります。ですから、勝負のかかる大切な試合では、自分のフォームを変えることに不安になり、今まで通りの自分のパターンやフォームに戻ってしまいます。

 このように、人は変化を嫌います。

 子供に「自立しなさい」と言いながら、子供がひとり立ちする段になると「あなたは私がいないとダメなんだから」と、スグに子供の生活に手出しして、自分の存在を子供にアピールする親がいます。

 娘に「結婚しなさい」「早くいい人見つけなさい」と言いながら、結婚しようとすると「家柄」とか「学歴」が、または「定職についていない、あの人で大丈夫なの?」と無意識で娘の未来に不安感を与えて、無意識に結納を阻止する親もいます。その結果、破談になると「どうして、お前はダメなのかね?」と、自分が不安感を与えたことは忘れて「お前には私がいないとダメね」と、娘を自分の側に縛り、無意識に娘を責めて自信を失わせるのです。

 怖いのは、このような親は自覚性がありません。だから、無意識の作用なのです。「私は娘の幸せを祈っています」と言葉で言いながら、つぶさに観察していると、親が娘の自立の障壁になっている場合があります。

 恋愛の心理にも似たような事例があります。

 幼い頃から暴力的な家庭で育った子どもは、家庭内にある種の緊張と、暴力が存在していたことが家庭のベースになっていますから「暴力をふるう男性なんて大嫌い」と思っていたのに「付き合う人、付き合う人が、暴力的な人に出会ってしまう」と相談に来る人が多いのもこのためです。緊張と不安が幼い頃の「ふるさと」だったので、その「ふるさと」に無意識に帰って行ってしまう。



 これも生活の恒常性と言えるものです。

 メンタルの教室でも、不思議と前の席のほうが前向きな人が多いのに、自分が「変わりたい」と言っても、後ろの目立たない席にクセのように座る人がいます。もちろん、言葉では理由をアピールします。「光がまぶしくて」「首が疲れるから」と…

 でも、ゲシュタルト療法や森田療法では、「無意識」は行動を支配すると教えます。無意識に前向きになることに抵抗をしているのです。

 言葉は「意識」。でも行動は「無意識」が支配されることが多々あります。だから、行動のパターンを見ることは、カウンセラーとして大切な作業です。言葉では「急がなければ」と言いながら、必ず、同じ時間に出社してしまうのです。その瞬間の寄り道や、歩く速度も、その人の恒常性が反映されています。

 「前向きですよ」と言いながら、前向きになる自分に不安をおぼえ、皆と笑っている自分に、ふと「これではいけない」と、笑っている自分に不信感を感じる人がいます。こういう人にも恒常性が働いています。だから、変化することに極度に抵抗をしてしまうのです。

 教室でも、講演会場でも時折このような抵抗をしている人を見かけます。

 子どもがカウンセリングを通して、自分をとり戻し、自分の意見を言い始めると「この子は素直でなくなった!」と怒りだして、カウンセリングの中断を求めて来る親もいます。この親にとって、子どもは心の病気になってでも、過剰に親の期待にこたえて、親の夢(進路、結婚)に従順にしたがい、親を喜ばせる道具になってくれれば良いのです。病的な関係性にも残念ながら恒常性は働くのです。

 また、他人に後ろ向きな恒常性を求める人もいます。

 笑顔が増え、前向きになって来た人に、攻撃する後ろ向きな集団もいます。「なに意味なく微笑んでいるの?」「あなたさぁ、急に、なに⁉︎良い人になっているの?バカみたい」「人なんて、皆、しょせん変われないのよ」「人間なんてみな自分が可愛いのよ。何、夢持ってるの?」と…

 気の弱い人ほど、その言葉や集団のシラけた恒常性に引き戻されてしまいます。

 でも、僕は思う。そんな恒常性に引っ張られないで「成長しよう!」

 人は幼児期から、少しずつ変化をしながら成長します。その時には不安と緊張の連続でした。自転車に乗ること、水の中で泳ぐこと、逆上がりにチャレンジすることも…

 その新しいことが出来た時のことを思い出してごらん。

 「変われない」と言う心の緊張と、「変わりたい」と思う勇気が、安定した恒常性に「ゆらぎ」を起こし、少しずつ「変わりたい」にシフトを変化させながら、人はまた一歩先に進むのです。

 自分の冷めたニヒリズムと、人の高笑いなんかに惑わされないで、海から陸にシフトした先駆者のように「変われない」という恒常性に、少し揺らぎを起こし、新しい自分に進化しよう!

 負けるな!












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