死を活かす!
2019/04/21
愛する人が亡くなった後に多くの人はこう思う。「もっと、やってあげられた。」「もっと、優しく出来た。」「もっと、効果的な治療はなかったか?」と、後悔する人がいます。
もちろん、残された人には、そんな時期があるのかもしれません。
でも、その後悔をあまりにも、引きずり過ぎると、周囲の「生きている人」に、あまり良い影響を与えません。
「もっと、早く病院に夫を強引に連れて行けばよかった…」と後悔している人がいます。僕は「死んだ人には、すでに死は、脅威ではない」と考えています。
死は「今、生きている人たち」にこそ活かすべき。もし、ご主人を早く病院に連れて行けばよかったと後悔するならば、息子や娘に、それを伝えて早期発見、早期治療を勧めれば、ご主人の死は実りになります。そして、自分のご主人への後悔を、誰かに生かしてもらえれば、ご主人の死はさらに沢山の実りをもたらすのです。
種は死んで(形を変え)、新しい実りをもたらします。
自分の後悔や失敗は、誰かに生かしてもらってこそ、意味が生まれ実りに変わります。
僕は小児がん病棟でカウンセリングをしています。そこでの子供たちのエピソードを多くの人の前で話しています。
「大人になりたい」と願った夢が叶うことなく、亡くなっていった子供たち…その夢の世界に、今日の僕たちは生きています。それを、僕たち大人は大切にしているのか?
何となく「今日を」あたりまえのように生きてはいないか?と参加者に問いかけます。
参加者の中には、涙を流し「亡くなった子供たちの分、しっかり生きようと思いました。」と反省する大人たちが生まれる。今の普通の生活の中に、小児がん病棟の憧れた「今日」がある。
なかには「子供を叱ってばかりだったけど、そうやって手を焼いているのも、子供が生きているという奇跡があるのですね。その奇跡をもっと楽しく味わいます。」と反省する親もあらわれる。
なぜなら、死は終わりではなく、生きている人に、命の時間は有限だと教えてくれるからです。だから、死がないと、生きている時間の大切さを僕たちは学ぶことができません。
では、種を、どうすれば実りに変えられるのでしょう?
それは、失敗を隠さないで学びにしてもらうことです。
上司は失敗を部下に語ることです。
親は自分の若き頃の愚かさを語るべきです。
先生たちも、未来に不安を感じながらも、明るい未来を信じていると笑って伝えればいい。いつか彼らが、大人になった時に、迷っていても笑ってもよいのだと学べるから。
悲しい恋に傷ついたら、まだ、傷つくだけの熱い心があるのだと思えばよい。
戦争の経験で後悔しているなら、普通の日常に戦争は始まり、個人の幸せなど国家によって、簡単に踏みにじられてしまうことを伝える必要があります。
すべての負の財産を、正しい財産に変えることが、失敗の種を、将来に開花させる方法なのです。
死は死者には、影響を与えない。死は、生きている人達の実りに変わることを密かに待ち望んでいます。
大地に、命が朽ちて骨になり、その下の地面にこそ、たくさんの実りをもたらすのを自然は、僕たちに教えてくれる。
<星野道夫(2000) 『星野道夫の仕事3―生きものたちの宇宙』 朝日新聞社>