桜に寄りそって…

      2019/04/21

 桜が咲いた後に、雨が降ったり、風が吹いたりすると恨めしく思います。
 ただ、いさぎよく花びらを散らすから、桜は美しいと言えるのかもしれませんが…

 

 話は変わりますが、知っていましたか?
 桜の花びら🌸が、落ちる速度は「秒速5センチメートル」だそうです。アニメ「君の名は」で有名になった新海誠さんが、世界中で有名になるキッカケになった、初期のアニメの冒頭のセリフが、この桜の花びらが落ちる速度は、秒速5センチメートルなんだよ。それが映画のタイトルになりました。

 

 桜の花も、そのはかない時の短かさを、運命として受け入れつつ、静かに風に舞い、大地に優しく落ちていくから、花びらが風に舞うシーンは、なぜだか静けさを感じます。

 

 カウンセリングも、風に舞う花びらのように、静かに人の心によりそうことが必要になりますね。

 

 ある先生が言っていました。高2を担任した時に、女子同士が3つのグループに分裂して、どのグループにも仲良くしている女子学生がいました。ある時に、その彼女が泣きながら保健室に来て「もう帰りたい」「教室には戻りたくない」とか「もう学校を辞めたい」と言いだしたそうです。

 

 最初は養護教諭の先生が聴いていましたが、担任でありメンタルの受講生でもある彼が、その日の4時限目から養護教諭にバトンタッチして話を聞くことになりました。

 

 「こうしたらどうだ」「こう考えてみたらどうだ」とありとあらゆるアドバイスを彼は試みたそうです。それに対して女子学生は「でも…」「それは分かっている…」「そんなことしたら友だちの、◯◯ちゃんの立場が…」と、彼のアドバイスをすべて否定して聴く耳をもたず。頭にきた彼は「だったら、もうアドバイスはしてやらない」と心に決めて極端に口数を減らしたそうです。
 頭の中では「早く終わらないかなぁ」「よくしゃべる奴だなぁ」と思いながら適当に相づちを打っていた。
 すると、彼女の話はクラスのモメ事から、自分の進路の話、弟が非行に走って困っている、父親が再婚するかもしれない…と、どんどん変化していった。たまたま、授業のなかった彼は6時限まで黙って話しにつき合った。
 しばらくすると女子学生は涙も消え、沈黙になり…
 笑顔になり「先生、私頑張るね!」と一言だけ残してチャイムと共に教室に戻って行った。

 

 そして、翌年の卒業式の日に、ホームルームが終わり、その女子学生が担任である彼に寄って来てこう言った。「先生、ありがとうございました。12年間の学校生活で先生が一番いい先生だった。本当にお世話になりました。」彼は「まぁね、お前達には本当に時間を割いたからなぁ。進路のこと、文化祭、体育大会…本当に疲れたけど楽しい一年間だった…」と言いかけたら、その女子学生は、彼の話をさえぎって「先生、私が一番嬉しかったのは、保健室で3時間も、ずっと私の話を聴いてくれたじゃん。あの時何も言わず、ずっと聴いてくれたことが一番嬉しかったんだよ」と…

 

 彼は生徒たちに学生生活の思い出が残るように、様々なことを計画し、達成させたり、バックアップもしてきた自負心がありました。しかし、一番の思い出が、あの適当に話を聞いていた保健室の3時間だったんです。その意味がメンタルを受講してわかりました。

 

 彼は言う、僕が今まで様々な書籍を読みあさり、講演会や各種研修や講座に行って学んでいたことは、どうやって生徒を「変える」かの一言でした。

 

 でも、メンタルで学んだことは「離別感」そう「先生」の問題なのか「生徒」の問題なのかを分けて整理することでした。そして、生徒に自分で解決する力があることを手助けすることでした。生徒の人生を、親なり先生が、そばにいて一生ついて指導などはできないこと…だから生徒に解決できるんだと信じてあげる「親しき仲にも離別感」でした。

 

 悩んでいるのは当の生徒であり保護者であるのに、相手の不安や心の奥底を、今までは聴きもしないで「定期試験を受けないと、追試験が」「このままでは登校日数が足らないから退学になる!」と、彼は自覚なく脅していたり、不登校の理由をムリに生徒から聞き出そうとしたり、頼まれてもいないのに「市の若者相談課」に連れていったりと「生徒」の心を完全に置き去りにして「自分」が何とかしないといけないと、先生である彼自身がもがいていました。

 

 衛藤先生の言う「親しき仲にも離別感」なのに、「親しくもないのに一体感」で、自分の問題としてとらえて、自分自身が生徒や親に巻き込まれ苦しんでいたのです。と、先生は反省されていました。それから立ち止まること、相手の心の動きを見つめることをするようになりました。

 

 そして、彼は受け持っている生徒にもメンタルで学んだ話しなどを自分の教室でもするそうです。女子生徒の中には目を見開いて相づちを打ちながら聴いている者も多く、彼女たちに話しを聴くと、友人関係やSNSでのやり取りに悩み・疑問を抱えている生徒たちが多かったそうです。

 

 ある時に彼が、就職試験の面接練習を担当する機会があり、そこで「好きな言葉」「座右の銘」を学生に質問すると、三人の生徒が「親しき仲にも離別感!」と答えたそうです。

 

 その理由をある生徒に聞くと「中学、高校の部活動でも顧問の先生から格言やコトワザを教えてもらった。でも全部ただのキレイごとに聞こえ、大人から押し付けられているだけで、私が求めている言葉ではなかった。でも自分自身が悩んでいる時に聴いた『親しく仲にも離別感』この言葉は自分の中に、薬のようにしみ込んで、精神的にも楽になって、周りを気にし過ぎず、胸をはって生活ができるようになった」と彼女たちは嬉しそうに語っていたそうです。

 

 これはカウンセラーEtoh.も聴いて嬉しくなりました。ウィキペディアの格言部門に選ばれました「親しき仲にも離別感!」ってね。

 

 そう、私が「解決してやろう」ではなく、相手の心が落ちる時には、落ちる心を引き受けて、桜に寄りそう風のように、相手の行きつくであろう、答えの道のりを一緒に旅することも大切ですね。散る桜も儚いけど、それにも意味があるのです。

 

 

 

 

 

 - ブログ

>