暗闇を光に変えるのは、あなた…

      2022/12/05

 忘れられないシーンがある。

 小学校4年生のある朝…玄関のポリバケツのゴミ箱に、フタからハミ出すように毛布が捨ててあった。その毛布には色のないマーブルチョコレートのようなものが付着していた。

 心理カウンセラーとして、それが何だったのかが今ではわかる。睡眠薬は過剰服用すると胃が飲み込んだものを逆流させたり、ためらいから自分自身で吐き出すこともある。 それが睡眠薬による自殺未遂…

 当時、僕の面倒見ていてくれた継母(お姉さん)その人は、うつ病だったと思う。父に恋われて自宅に入ったものの、僕と妹がいて、挙句に父は、別の女性の所に出かけて、ぜんぜん帰って来ない。「じゃぁ!さよなら」と、子どもたちを置いて、自分の新たな新生活を求めればよかった。でも彼女は優しすぎた…

 出て行きたいけど子どもたちが気になった。それが彼女の心を疲弊させたのだと思う。その自殺未遂から数日後に彼女は本当に僕が追いかけられないところへ逝ってしまった。

 そこから、さかのぼって数ヶ月前に父と喧嘩して、その人は泣きながら家を出て行った。僕は裸足で追いかけて手をつかんで「もう夜だから、帰ろうよ。お願いだから…ねぇママ💦」と必死で引き止めた。でも彼女は「ごめんね。良いママになれなくて」と悲しい顔で僕の手を離して夜の向こうに消えて行った。

 それから数日して、その人は僕の思いをくみ取って帰って来た。帰ってきた彼女は透明になっていた。とても穏やかな笑顔で優しかった。心が何も感じない透明になったのだと思う。そして、自殺未遂の朝を経て、次は未遂ではなく、あの世界に旅立った、一人透明なままで…

 あの時、僕があの人を追っかけなかったら、僕の家に戻らないで、あの人は色のある世界で、今でも生きていて年老いていたのではないかと…

 僕は、それから去る人を追わなくなった。どんなに悲しくても、もう誰かの手を引っ張って、強引に僕の世界に引き戻すことはしなくなった。

 「なぜ、心理カウンセラーを目指したのか?」心の勉強をするたびに、あの玄関のポリバケツのゴミ箱の毛布を思い出す。今の僕なら、大人の心理カウンセラーなら「あの女性(ママ)は救ってくれますか? 今のあなたなら、あのママの手を引いて、この世に引き戻すことができますか?」少年の僕が尋ねる。

 だから、僕はあの頃の僕を守るために今でも、強いカウンセラーになろうと努力している。 今もこれからも…


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心理カウンセラー衛藤信之
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