手放す

   

 亡くなった夫や子ども、孫の成長を収めた思い出の写真が、友人の誤操作で、携帯から消えてしまいました。どうやっても復元できないことがわかり、喪失感でいっぱいです。友人に悪気はなかったことはわかっていますが、気持ちのやり場がありません。
正子さん(77歳)


 失った物のことを思うと残念ですね。また、友人も故意ではなかったことを知っているだけに相談者は気持ちのやり場がないこともわかります。さらに、年齢を重ねると失った思い出が、限られた人生と重なり思い出の比重は重くなるものです。
 これは大切な品だけではなく、大切な人を失っても同じことがいえます。失った人やペット、思い出も含めて「悲しみのプロセス」には心理学では四段階が存在します。
 ショック期→喪失期→うつ期→再生期を通過します。
 最初は『ショック期』で相談者は、写真が消去してしまった時にはショックだったと思います。なぜ?私だけが?大切な物なのに。ですから、復元できないか携帯ショップに、あわてて駆け込んだのではないでしょうか。
 次にもう復元不可能という現実に直面します。写真は戻らないという現実を知って「まさかこんなことになるなんて」「どうしてですか神様、仏様」過去には時間は戻らないという現実に直面して『喪失期』に入ります。
 今の相談者は『うつ期』で、後悔したり「悪い夢ではないのか?」ドッキリカ        メラのように「冗談でした」と誰かが言ってはくれないか…。と非現実はなことを考えます。でもこれが現実なんだ。悔やんでも誰かを憎んでも、時間は戻らない。分かっているけれども気分が塞ぎ込みがちになる。誰かを責めたら心が軽くなるのかと思ったり、そんなことをしても現実は変わらないと反省したり。
 気分は日々、乱気流に見舞われた紙飛行機のように上昇下降を繰り返します。


 実は次のステップが重要なのです。そのまま悲しみと暗闇の世界に留まるか、新たに今やれることをするかで、次のステップは変わってきます。
 理想的なステージは『再生期』です。失った人やペットも、私が落ち込むことを望んではいない前を向かなければと、少しずつでも現実を受け入ることが課題となります。
では、どうしたら事態を受け入れることが可能なのでしょうか?
難しい命題ですね。
 太宰治の師である井伏鱒二が「さよならだけが人生だ」と有名な言葉を残しましたが、でも僕のような凡人は、なかなかそのように諦められないですよね。
 実は、年齢を重ねるのに大切なことはこの諦めです。この諦の字は、仏教では悟りとか真理を表します。悟りや真理とは「人生は、すべては移りゆき変化するものである(諸行無常)」であることを明るみに出すことです。これが明らめ(諦め)です。現実はしっかり見据えて、現実に光を当てて、明らかにする作業が諦めです。
 「もう戻らない」これが明らかな現実です。次に亡くなった、ご主人は落ち込んだあなたを「どう感じるか?」僕の妻が僕が失ったことや思い出の写真が無くなったことを悔やんで、鬱っぽくなってふさぎ込むことなど望みはしません。
 そして、今できることを考えて欲しいのです。ご家族に伝えてみて下さい。「大切なおばあちゃんの写真が喪失して、とても悲しいから助けて欲しい」過去のお孫さんたちの幼かった写真や、私と一緒に写った写真をおばあちゃんに分けて欲しいと、子どもや孫たちに頼むことが、今の相談者にも出来ることです。それは迷惑なことではなく、誰かを頼ることは決して悪いことではありません。


 それでもダメなら、それが「諸行無常の現実」です。それが諦めです。相談者の人生は、過去の思い出に浸るため、写真を眺めるために存在するものではありません。人間の素晴らしさはイメージの生き物だという事です。キラキラ輝く思い出は、いつでも、この相談者の頭の中に美しい映像として存在しています。たとえ写真を失っていなくても、写真を四六時中見つめて過ごすわけではないのです。それは単なる失なったものに対する執着心です。
 古代インドでは、相談者の年齢は「林住期」と言って全ての執着から離れて、林の中で独りで瞑想し、人生を完成させる時期だと言われています。
 人は孤独で生まれ、独りでこの世界から旅立ちます。諦めと言うのは、その現実を逃げないで明らかにすることです。それを引き受けていく時期が林住期です。
 そして何よりもお友達を許すことです。過ちとはいえ、その原因を作った友人が一番、辛い立場にあることも意識して下さい。それすらも心の暗闇から明るいところに出して下さい。自分の悲しみに打ちひしがれていると、その大切なことが見えなくなるのです。
 人を「許す」という美しいお土産を持って、ご主人の待つ世界に旅立つ準備をするのも人生です。いつか時期が来たら写真は、この世界に置いていく品です。遅いか早いかの違いだけです。恨みは、あの世に旅立つ時には重荷になります。

 次の世界へのお土産があるとすれば、愛だけだと僕は信じています。


 喪った人、失った物、失った立場、すべて手放して再生に向かって歩き出した人が成幸者です。それが人生を完成させる作業だと思います。




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心理カウンセラー衛藤信之
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