愛は遅れることはない。

      2019/04/21

 人生すべてを受け入れて生きる。
 
 母なる大地は、われわれに食べ物や、住むところを与える。その母なる大地は突然に命を奪うこともある。(インディアンの言葉)
 人生のすべてを受け入れると言うことは簡単ではありません。自然を愛するなら、春を受け入れるだけではなく、秋や冬も受け入れないといけない。人生にも楽しい日々の後、木枯らしが吹く日々もあり、そして、じっと首をすぼめる冬もあるのです。
 
 ある受講生は、亡くなられたお母さんの思い出を語ってくれました。
 
 お母さんが病になって3年目の春。

 

 二度目のお母さんの手術は失敗に終わり、大きな傷跡だけを大切なお母様に残して終わってしまいました。
 窓から差し込む夕日に照らされた病床で、お母さんが天井を見ながら一粒、一粒と静かに涙を流しながら「ダメだったんだね」と力なくつぶやいた、彼女は「うん…」とだけしか返せませんでした。彼女はその情景を忘れられないと言います。
 
 だから、メンタルの講座の後に流される映像に…「その人を愛していますか?」お母さんのことを想いながら「はい。もちろん愛していました」しかし、「愛する人の、人生そのものすべてを愛していますか?」と続く映像に、彼女は「はい」と心から言い切ることができない思いがあった。教室に居ながら、自分自身がどこに居るのか、わからないくらいに頭が真っ白になった…
 
 お母さんが亡くなる1ヶ月くらい前、病院に向かう途中で、空に二本の虹を見つけた。珍しいので、それを携帯のカメラに収めた。その写真を病室のお母さんに見せると、お母さんはとても喜んで、しばらく二本の虹をジッと見つめて微笑んでいました。きっと、お母さんは奇跡的な虹と、奇跡のような病状回復を願って見ていたのかもしれません。
 
 それから、奇跡的な二本の虹の話しをして、虹の写真を見たがりました。

 最初は彼女も感動し、そのつど虹の話をし、携帯の虹の写真を見せていました。しかし、来る日も、来る日も写真をせがむお母さんに「さっき写真みたばかりでしょ!」「また、虹の話しをするの?何度も聞いたよ!」と冷たく対応してしまったそうです。
 
 「相手の話しを聴く時には、頭を白紙にして、相手の視点から世界を見つめること。何よりも相手を変えようとせず、相手の世界を知ろうとすること…」と語る衛藤先生の言葉が心に響きました…
 
 今なら母の気持ちが痛いほどわかります。病院の窓から見る外の景色は、母の目からは、虹の写真がどれだけ美しく映っていたことでしょう。病床にふせる母には、二本の虹の美しさは、私が見た以上に、さらに何倍にも輝きを増し、いつまでも心に残る景色だったのでしょう。 その当時の私には、その視点はなく、ただ「何度も同じ話しをする必要はない」と、自分自身の色メガネをかけて、母にきびしく接していたのです。
 
 今なら二本の虹の写真を大きく現像し、母がベッドから見ることが出来るように高い所に飾り、何度も虹の話しをする母と一緒に、感動を語り合えたに違いない。虹の写真を見ながら満足そうにベッドに横たわる母の笑顔が今なら想像できる…

 

 

 

 私は病の母ごと、すべてを愛せていたのでしょうか?

 私を含めて父も弟も私たち家族は、母がいつか元気になり、病が治ることを願うあまり、弱っていく母に「元気になる為の努力をすべき!」「いつか、元気になるべき!」という固定化されたビリーフ(信念)を持ち、母に対して「頑張って!」というYOUメッセージを押し付けていました。その当時、母は母なりに精一杯を生きていたのに。
 「もっと、頑張って治療をしなければ!」「今の状態で生きていてはいけない!」と、自分たちの価値観を押しつけていました。その当時の母は「息苦しい」とよく言っていましたが、それは病気だけのせいではなく、私たち家族のYOUメッセージが重荷となり、押しつぶされそうな思いで、母の口から出た言葉だったのではないでしょうか。当時の私は、母の心の叫びを聴いてあげられなかった。
 
 この受講生の気づきは学びになります。
 
 僕たちは健康が善で、病気が悪。前向きが善で、後ろ向きが悪。満ちたりた日々が善で、落ちこむ日々は悪と思って過ごしています。それを疑うこともなく、自分にも、身近な人にも、その価値観を押しつけています。

 森田療法の言う「あるがまま」や、ロジャースが言う「受容」は簡単ではありません。

 それはインディアンの生きる姿勢でもあります。
 
 話してくれた彼女は「今なら母の手をさすりながら『今のお母さんで充分だからね。私たちは、お母さんと共に生きていけるだけで幸せなんだよ』と母の手を取り、虹の写真を見ながら、やさしく I メッセージを伝えてあげられます」
 
 最後に、今なら「母のすべてを愛しています!」と言えます。笑顔でこうシメくくってくれました。
 
 インディアンは言います。「愛する思いは時空を超えて死んだ者にも伝わる」と…
 
 僕は思っています。「死は『死者』をおびやかすことはありません。死は『生者たち』の未来を生かすために存在するのだ」と。

 そう、今、僕たちが思えるなら決して遅くはない。愛は伝わるのだから…
 
 思った時に、遅れても僕たちは愛を伝えればいい。
 
 メンタルは、「時間差 I メッセージ」を大切にして下さいとお伝えしています。

 

 

 



 

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