弱さの中に隠れた強さ…

      2019/04/21

 授業後の食事会で「私は心の中は、冷たいのに、人から優しいと言われる時がある」と彼女は言う。

 それは勘違いで、それが納得がいかないとでも言いたげに…

 僕はその彼女に言った。
 「でも、冷たいと言われるよりも、優しいと言われるほうが、心地よくないかい?」彼女は「でも、内心は冷たいもの!」

 彼女は優しいと、人から言われると「その期待に応えねばならない」と心の中で不安なのだろうと思う。そう「ずーっと、いい人は続けられない。その期待を裏切ったらどうしよう」と…心が落ち着かないのだと思う。

 そこには彼女の優しさの証拠がある。

 僕は「自分は冷たいから」と、自分を突き離し、冷静に自分を見つめている人に安心感を感じる。

 逆に「自分は絶対に人を裏切らないし、人を傷つけない」と言い切る人のほうが、僕は信用ができない。そんなことを簡単に言ってのける人は、僕は「今まで、そこまで追いつめられた経験が少ないからではないかなぁ」と考えたりする。

 痴呆症の、年老いた母親を抱える娘さんが「ふと母が、早く死んだらいいのにと思う時があります。もう、イヤ…こんな生活…」と語った後に、顔をゆがめて泣いた。「自分はヒドいでしょ…」と自分の冷たさを責めて。

 僕は、何も思わない冷たい女性は泣くわけもなく、と思う。

 僕は、人はそれほど強くないのではないかと思っている。人は誰にでも、恐ろしく、冷たく自分勝手なところもあるし、とても忍耐強く、慈悲深くて、優しい愛情もあるのです。でも、そんな相反する自分自身を、抱えながら生きているから、人はやはり強くもある。

 母のことで泣いた奥さんは、突然、夜中に徘徊(自覚なく歩き回る)する母を追って、町に飛び出さなくてはならないから、服を着たまま日々眠りにつく。だから、彼女は年中睡眠不足になる。
 ご近所では、その母が「娘は何も食べさせてくれない」と混乱して話す。ある時には、自分で出した排泄物を、家の壁に塗りつけたりするのだと語った。

 ほとほと、そんな日々に、疲れはてたすえの極限状態で「早く死んで」と人は願うのかもしれない。それらの日々の苦労を、何も知らない人が、一般論や道徳心という、うわべの優しさで、本当に優しい人を裁いてしまう。

 このような疲労困ぱいの、つぶやきに対して「一瞬でも、母の死を願うなんてありえない」などと、僕には裁けない。

 なぜなら、そんな弱さは誰にでもあるのだと思っているから。

 戦時下、街は空襲のため、上がった炎が火柱になり、それらが重なりあって炎の竜巻が生まれたのだそうです。それが街中を、生き物のようになめ回し、逃げまどう人々の、服や皮膚をジリジリとイヤな音をたてて燃やした。

 人びとは追いつめられた末、校舎の中にあるプールに飛び込んだ。そのプールは思ったより水深が深かった。でも、人びとは髪の毛や皮膚を焦がす熱風から逃がれるため、水深のあるプールに、誰もが飛び込んだ。

 プールの下を見たら、最初に飛び込んだ集団を踏みつけているのが見えたそうです。だから、下では呼吸ができない人々の顔がゆがむ。でも、上から襲ってくる皮膚をも焦がす、炎の竜巻から逃れるために、人々は、発作的に下の集団を足台に使って本能的に誰もが助かろうとしたと…

 その生き証人は語る。

 「誰もが突然に現れた極限状態には、本能的に狂気に走ってしまう」と…良心的で善良な一市民が、極限状態に追い込まれた時には、冷静な判断など完全に失った狂気の集団に変ぼうすると…

 だから「絶対にない!」と軽々しく言い切ってしまう人のほうが、自分の闇(シャドー)に気づいていないので、極限状態などに追いつめられると、逆に自分の弱さに簡単に流されてしまう。

 会話の軽々しいのと同じで、行動も軽々しく流されてしまう。

 でも、自分では冷たい人間だと思い、自分自身をクールに突き放して内観し、自分の内面にある影(シャドー)の部分をも、チェックしている人ほど、僕は安心感を感じて信用できる。「転ばぬ先の杖」の準備ができているので、いざとなると踏ん張れる。

 逆に、いろんな経験もせず、幸せと安心感の中で、生きてきた人のほうが、自分や人間の弱さを知らないから、いざという時に、いともたやすく方向転換して、自分の過去に語った熱き言葉など、かえりみずにスタコラサッサと、逃げ出してしまう。だから、「絶対ない!」などと軽々しく言ってしまう人ほど僕は信用ができない。

 自分の正義の目標は、おおいに自分で持てばいい。でも、その正義の刃で誰かを裁く時には、慎重になって欲しいのです。

 自分のシャドーを見つめながら、そんな弱さを抱きしめて人は生きるのです。

 だから、やはり人は強いのだと思う。


《おまけ告知》

 メンタル研究コースの卒業生で、モデルの押切もえちゃんが、大絶賛した「24の物語シリーズ」の中山和義さんが、新しい本を出しました。

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 今回もメンタルのエピソードが多数語られています。オススメです。

 そして、今週の雑誌アンアンに掲載されました。雑誌の取材は多いから、取材を受けた日の教室では「アンアンと言っても、表紙にモデルとして、僕が出ているわけじゃないから」と冗談で言っていたら、表紙に出てました。そう名前が! 新聞広告にも出ていたそうです。

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 次回はモデルで登場したい! ムリか!


日本メンタルヘルス協会:衛藤信之のつぶやき


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