大河に流されない一本の柱のような生きかた。
2019/04/21
「豊かさとは、物をたくさん持つことではないんだよ。君がたくさんの物を持つということは、それだけ自分の大切な時間を、物と交換していることになるんだ。物をたくさん持つことは、それだけ人生の時間を請求書の支払いだけに使ってしまっていることになるんだよ。そして、貧しさとは、物を持たないことではない、いくら持っても満たされない心が貧しいのさ」
これは「世界一貧しい大統領」と言われる元ウルグアイの大統領、ホセ・ムヒカが語った言葉です。
あの世の地獄には餓鬼が住んでいるそうです。相手を罵倒する時に「このガキ!」と言う語源になったのが、この餓鬼です。鬼の周りでウロウロしていて、いつも飢えているのが餓鬼です。
生きている時に、欲張りで強欲な人が死ぬと地獄に堕ちて餓鬼道に入ると言われています。
この地獄に生きる餓鬼には三つの種類があるそうです。
一つは無財餓鬼で、ハダカで走りまわっている餓鬼です。
二つ目は小財餓鬼です。これは少し財産を持っています。身体に布をまとってお腹が出て走りまわっています。
三番目は多財餓鬼です。たくさんの財産を持っている餓鬼です。
この多財餓鬼は地獄に住んでいるだけではありません。
今の社会、現代社会にも生きています。そうです、食事が三食取れて、屋根のある家に住み、そこそこ普通の生活をしていても、何かに飢えていて、今の生活では満足できなくて、もっともっと欲しがる、心の飢えが止まらない人びとのことを「多財餓鬼」と呼びます。飢えは地獄にだけにあるのではなく、心の中にもあるのです。
ムヒカ元大統領は、2012年にブラジルのリオで開催された世界環境会議での「伝説のスピーチ」が有名です。
「現代のハイパー消費社会を続けるためには、商品の寿命を縮めて、できるだけ多くの物を売らなければなりません。10万時間持つ電球を作れる技術があっても、1000時間しか持たない電球しか作ってはいけません。また、売ってもならないのです。たくさん働き、たくさん売るためには、マーケットには長持ちする電球はいらないのです。その壊れやすい電球を買うために、人はもっと働き、大切な自分の時間を削り、その時間と寿命との交換に1000時間しか持たない商品を買うために人は、また働くのです。多くの人びとはこの悪循環の中に住んでいるのにお気づきですか…」
環境問題の国際会議で、未来に環境を維持するための資源確保や発展する方策が議論される中で、環境問題に対する根本的問題は「環境問題は全世界の心のあり方の問題ではないですか?」と質問をまじえてムヒカ元大統領はスピーチをしました。
「現在の裕福な国々の発展と消費モデルを真似することが未来と環境には大切なことですか?」
「ドイツ人が一世帯で持つ車と同じ数の車をインド人が持てば、この惑星はどうなるのでしょうか。息をするための酸素がどれくらい残るのでしょうか?同じ質問を別の言い方でしましょう。西洋の富裕な社会が持っている傲慢な消費を、世界の70~80億人の人が維持できる原料が、この地球のどこにあるのですか?」
「高価な消費、ライフスタイルの追求と言った、「豊かさ」という競争の中で、世界のみんなで未来を良くしていこうという、共存共栄が私たちに本当に可能なのですか? 資源と言う問題に対して、どこまでが仲間で、どこまでがライバルなのですか?」
「 私たちは消費社会をコントロールしているのですか?その消費社会に人びとがコントロールされているのではないですか?」
「なぜ、私たちはこのように消費することが幸せであるという社会を作り、その社会の幸せだけに支配されてしまったのでしょうか?」
そして、最後に彼は「私たちは消費社会を発展するために、この地球に生まれて来ているわけではありません。幸せになるために、この地球にやって来たのです」とスピーチで、自分の思いを熱く語りました。
彼の言うように、中国や韓国とのトラブルも、木も生えていないような島の問題ではありません。資源の問題なのです。
この世界一貧乏な大統領は、給料の90パーセントを寄付し、小さな家と小さな畑、そして、友人からもらった中古のビートルが総資産です。彼は言います。人生は旅のようなものだと、旅に出るのにあれもこれも必要だからと50キロのリュックを背負うと疲れて歩けなくなる。人生で必要なものは少なくていいのさ…
そして、 彼は子ども達にも語ります。
ゆっくり、ゆっくり大人になりなさい。大切なものを味わうように…
そして、いつの日か今の大人達に解決できなかった問題を、解決できる隣人に分け与えられる、心優しき大人になって行きなさいと。