プロのメンタルサーファー

      2019/04/21

 以前、株のトレーダーと講演前の講師控え室で話をしていて「日本人は株で儲かる!」と言われると、普通に貯金している人も、損失感を刺激されて株に群がる。
 株式は売ったり買ったりすると、お金が動くのだから儲かる人は儲かるし、寄付する人は寄付で終わるのだと言うのです。


 日本人の多くは、この損失感を刺激されると心理的に弱い傾向は確かにあります。誰かが儲かっていると、自分が損をしているという心理になるのです。
 横並び社会の日本では、個人主義の「自分は自分流」という欧米とは違って、周囲に取り残され感が異常に強くなります。


 ある女性は家にジッとしてはいられないと言います。特に夕方になるとキラびやかな街が恋しいのだと言います。
 「街では楽しいことが行なわれていて、何か自分だけ退屈な人生で、損しているみたいだから」と言うのです。この自分だけが取り残されているのではないかという損失感が彼女の中にも流れています。


 主婦の不倫も「私だけが楽しんでいないのではないか?もっと、燃える恋ができたのではないか?」
 そして、その燃える代償として大切な子どもや安定した家庭生活まで不倫の結果として失ってしまう。


 僕が尊敬する年配の女性で、いつも笑顔で働き、いつもどんな状況におかれても、何事にも感謝して日々を過ごしている人がいます。
 「この人はストレスをストレスと感じていないのだろうなぁ」と彼女の周囲の人は、いつも感心してみている。
 ある時、その年配の女性に心理的なタフさの秘密を教えてもらったことがあった。


 その女性のお母さんは、働き者で、いつも汗をかき、どんな苦境にも黙々とグチを言わずに生活していたそうです。そのお母さんの口グセは「1年間に三日でも良いことがあると、その年は『ステキな年だった』」と言って、感謝して毎年を締めくくっていたそうです。


 だから、亡くなった母にあの世で会った時に、褒めてもらえるように、その母を見習って、いつも感謝して日々の仕事を黙々としていると、さらにステキな日が増えて「このままでは、亡くなった母に会わせる顔がないと思うから、また、黙々と働くと、また、ステキな日が増えていって、もっと、もっと働かなきゃと思って過ごすと、また、今日のようにステキな日が増えて、こんなことで良いのかと思って生きています」と、その彼女の功績を讃える表彰式の会場で、まるで自分自身が表彰されることが罪であるかのように「また、こんなステキなことがあると、さらに努力しないといけない」と、自分に言い聞かせるかのように、肩をすぼめながら、僕に語ってくれた。


 彼女は、まるで徳川家康が詠んだ「人生とは、荷車を押して坂道を登るがごとく」に似た人生観で、人生は苦しくてあたりまえと思って生きているから、逆にストレスある日常の生活を、ストレスと感じていないかのようなのです。


 多くの現代人は、人生は楽しくなくては、また、良いこと続きでなくては、と思っています。そんな幸せ症候群の人たちほど、そのようにならない日常の現実に落ち込み、苦しんでいるのです。前出の女性のように、夕方になると、街ではみんなが楽しんでいると思うから、家でジッとしていることに耐えられなくなる。


 楽しい祭りの日々が当たり前と思うから、単調な日々が損失感でいっぱいになる。このような心持ちで結婚すると、普通の結婚生活に不満が出てくる。付き合った当初のような、美味しい食事と、ワクワクするイベントが日々の結婚生活にないと不満になります。出会った頃のデートのような華やかなイベントがないと虚しさを感じてしまうのです。


 だから、結婚生活への期待値と現実のギャップに耐えかねて、あこがれ、夢見た結婚生活が喪失感でいっぱいになり破たんしてしまうのです。

 

 現代の多くの人が鍛えられてこなかったのは、日常の普通の生活に耐える内面にある「心理的なタフさ」です。


 普通の日常のありふれた生活の中に幸せを発見し、楽しめる能力の開発が人間の素晴らしさです。


 「お金持ちになるセミナー」「運を引き寄せるセミナー」「自分を好きになるセミナー」などのセミナーはありますが、これらのセミナーは、その状態 にならないと幸せではないし、常に幸せが続き、いつも自分が輝いていなければならないかのように、よりアドレナリン系の幸せの中毒患者へと誘い込み、興奮のイベントへの依存症を強化しているかのようです。


 僕は、ずーっと、その発想は危険だと警笛を鳴らしてきました。


 なぜなら、人はお金がなくても幸せに感じている人はいくらでもいるし、成功していても、いまだに不満な人はいくらでもいます。


 成功しないといけないと言われると「自分だけが人生の落伍者だ」と、挫折感が強くなり、人生の不満から、意味なく街で人を斬りつけたり、自分だけ価値がないと落ち込んで心の病いを発症したりと、現代の社会問題の背景には、アドレナリン全開の日々への賞賛と憧れがあるようです。


 どんな状況でも、心を安定させ、その中に楽しみを見出しうる能力の向上が、日本メンタルヘルス協会の理念でも謳ってきたことですし、それをメンタルの教室では伝えています。


 どんな状況下でも、サーフィンのように、大波小波の人生を楽しもう!















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