より愛ある行動を、子どもは受け取る。
2019/04/21
彼女には夢があった、結婚したら、悲しみは半分に、喜びは倍になると、そんなステキなイメージがあった。
ところが、現実の結婚生活は、そのような理想のイメージどおりにいかなかった。
奥さんが、朝起きて「いい天気ね」と言うと、ご主人は「それが何だよ、暑いだけだよ」と言い、一生懸命に料理を作っても、ほめる言葉はなく「味がない」「色どりが悪い」「マズイ」とマイナスなことの連射攻撃。
テレビで笑ったり、感動して泣くと「お前は単純だなぁ」「何も分かっちゃいない。裏があるんだよ。こんなのは…」と、冷水を頭からかけられるような、マイナスな言葉が返ってくる。
ただ、自分だけのことなら彼女は耐えられた。
子どもが誕生してからは、彼女の悩みは深刻化してゆく…
結婚相手である、ご主人の冷ややかさが子供に影響するのではないかと…
彼女が何よりもツラいのは、子どもが素直な心で感じたことを、ご主人が頭ごなしに否定し、あざ笑う。
彼女は大人だからご主人にマイナスを言われてもかまわない。でも、子どもの素直な心はゆがめられ、間違った価値観を受け取るのではないかと…
このような相談に対して、奥さんの話を聴いて「それは、ひどいご主人だね」と、彼女の言葉を受けとって、カウンセラーが、ご主人を攻撃しない方がいい。なぜなら、悲しそうな表情で、相談している奥さんには、そのご主人と離婚する気はなく、まだ、彼を愛している。
その証拠に、相談をしている奥さんの表情は、ご主人を憎んでいる表情ではなく、悲しそうな顔をしていた。
僕は、奥さんが「主人の性格なのか?」と、不安がっているのを感じて「ご主人が家族にマイナス言動を言うのは、家族が憎いのではなく『ただ、かまって欲しい』のかもしれない」と、別の見方を提示した。
すると彼女は、ホッとした笑みを見せた。やはり、この人は、ご主人を憎んでいるのではない。
僕は「ご主人が家族に、マイナスなことを言うのは、フラストレーション攻撃説と呼ばれるケースもある」と説明した…
学校の成績が、親の望むようなレベルに到達しない場合、生徒は親から認められないことがあります。そこで愛情飢餓感から、生徒は問題行動(非行・暴走行為etc.)を起こしたり、病弱(心身症)になって、親に心配させるという方法で、親の関心を引くことがあります。
職場でも、なかなか思うように周囲の評価が得られない時に、皆で決めたことも「俺は聞いていないから」と、うそぶく社員もそうです。
また、どうせ俺は問題社員だから、なら「それを演じてやろう!」とマイナスの行動で周囲の注目を集めようとする場合もあります。
だから、ご主人の問題行動も「言葉通りではない場合があります」と告げると、さらに彼女は安心したのか、少し安堵の色を表情に浮かべた。
ご主人も、どうすれば、家族にステキな関係が築けるのか、分からないだけかもしれないし、それが「正しいコミュニケーションだ!」と間違って、身につけているだけかもしれないからです。
そのゆがんだ、ご主人のコミュニケーションを修正していく方法は、心理セラピストのお得意とするところです。
だから、あとは心理学で、間違ったコミュニケーションを修正する「夫」操縦テクニックを学べばいいのです。
さらに、彼女のように、環境が子どもに影響することを悩んでいる人は多いようです。
僕自身は子どもたちは、それほど愚かではないし、か弱くはないと思っています。
どれほど相談者のご主人がマイナスな考えを持っていても、ご主人を否定しないように、奥さんは奥さんの価値観や考えを、シッカリと子どもに伝えればいいのです。
子どもの目を見て「あれはお父さんの考えね。お母さんは、こう思うのよ…」と、自分の思いを語ればいい。
「世の中には、いろんなことを感じる人がいて、それをあなたが選ぶのよ。あなたは、あなたの考えを持てばいいの…お母さんの意見はね…」と。
子どもへの最高の強みは、子どもを愛し、心を砕いている優しいお母さんがそばにいること。それこそが、僕が相談者の彼女に感じた力です。それが、やがて子どもには、最強の防御壁になります。
アメリカの教室で、こんな議論がありました。
アメリカ人のご主人と、フランス人の奥さんのカップルがいた。
「どちらの国の価値観を伝えればよいのか?」と言う議論でした。
その中で自分たちが出した結論は、国際結婚であっても、国内結婚であっても、自分たちが大切だと思っていることを日々語り伝え、それぞれが胸を張って生きればよいと…その中で子どもは「ステキだなぁ」と感じた生きかたを受け入れる。これを心理学では「好意のモデリング」と呼びます。
人は言うように育たなくても、真似たくなる生きかたを受け取って育ちます。
幼い時には子どもは親のマネをします。親に憧れ、親が大好きだからです。でも、思春期になって「どうも親は楽しそうでない」となると、その時期に憧れている先輩や、好きな芸能人の生き方のほうを真似し始めます。それを親たちは、子どもの反抗と感じるのです。これが反抗期です。
でも、長い歳月をかけて、親がステキに年齢を重ねていると、やがて子どもは、成人し、親の生き方に戻ってきます。ただし、それは先にも書きましたが、親が年々ステキな生き方をしていること、という但し書きはつきますが…。
僕は最近、このように思っています。
世界を旅すると、世界には貧しくて、幼い時から働いている子どもたちがたくさんいます。「稼ぎが悪い!」と、納屋に閉じこめられ、ぶたれたりする不幸な子どもたちが世界には数多く暮らしています。
そんな、悲惨な子ども時代を過ごせば、精神医学的に見ると神経症や心身症、または、鬱などの精神トラブルが生じてもおかしくは無いはずなのです。にもかかわらず、うつ病や引きこもり、ニートなどのストレスからくる精神トラブルの報告が少ないのです。
逆に、日本のように飽食の時代に生まれ、なに不自由ない家庭の子どもたちのほうが、引きこもりや、ニート、パニック障害などを引き起こし、その数は年々増え続けているのです。20代、30代の死亡率のトップは日本では自殺です。これは先進7カ国でも日本だけです。
これが現代の、日本の「心理パラドックス」です。
親子関係がマスコミに語られれば語られるほど、自分と親との関係を人と比較して落ち込む人が増えています。子どもの問題が浮き彫りにされるほど、子どもは「自分は愛されていなかったから…」と、自分の責任を放棄して、働かない若者が増えてゆくのです。
僕のカウンセリングルームに来室される相談者にも「私は親に愛されなかった」と、親への恨みを語りながら、親の家に住み、親に対して、ある一部分でも多いに頼りながら「自分の都合のよいところは干渉しないで!」と、いまだに幼子のように親を攻撃する、甘えの心理から抜け出せない相談者がたくさん来られます。
人間は、誰かに依存しないと生きられない存在です。でも、夫婦でも、親子でも、職場でも、誰かに依存するほど、その相手に対するイラダチは増え続けます。
それが人の心理なのです。
怒っている人に会うたびに、僕はその人が、腹を立てている誰かに「心の中を、いつも支配されているなぁ」と考えるのです。
「親が、親が」と叫ぶほど、その人は、その親が重大に思えてくる。ならば、親を無視した世界で、カラッと明るく生きればいい。
その憎き親に、しがみついているのは自分だということには、気づこうともしない。
長年、カウンセリングをしていて思うことは「その人が、日々とり続ける行動が、その心の問題をより深刻化する」と、僕は確信しています。
トラウマだ、インナーチャイルドだと深刻になればなるほど、それが重大な問題だと思えるから不思議です。
トラウマがあっても飯は食えるし、インナーチャイルドが癒されなくても、死を選ばないかぎり、人は死にはしない。その強さが、自立した健全な大人なのです。
話は脱線しましたが、あまり子どもの心がどうのと心配しないで、親は明るく胸を張って生きることが一番だと思っています。
僕は子どもたちの先回りをして、ストレスのない環境を整えるのは、子どものタメではなく、親である自分の不安を取り除きたいタメだと思えるのです。それが、度をこすとモンスターペアレントのように「子どもが病気になっているから学校側が送り迎えせよ」「子どもが朝起きないから先生が起こしに来てください」となる。
だから、お母さん「子どもは大丈夫!」と信じることです。きっと、この子なら親を乗り越えると!
僕は、日本の子どもたちも信じています。君たちはきっと、乗り越えて行けるさ!と…
【追記】2010年11月13日タイトル:どちらが正しい?にも、似たような記事がありました。コアなファンから教えて頂きました。感謝です!