「感動」に出会いたいのなら…
生きている意味がわからない。
何のために生きているのか?という若者が多い。
日本の戦時下では「ただ生きるだけ」に生きるために全エネルギーを注ぎ込んでいました。
その頃は「生きる意味がわからない」という理由で命を自ら断つ若者は、ほぼ皆無でした。
平和な社会では「生きている」ことにエネルギーを注ぐ必要はありません。
「人は何によって生きる意味を見出すのか?」
今、オリンピックがフランスで開催されています。男子バレーボールが話題になっています。
昔から世界の身長差の壁に、日本の男子バレーボールは「世界で勝つことがない」と見向きもされない競技でした。
東京オリンピックで男子チームのコーチを務めた松平監督は、身長で勝てないのならトリッキーなアクションとスピードアップの強化に挑みました。
現在では世界標準となった、Bクイック、Cクイック、時間差攻撃、ワンセッターシステム、バックアタック、一人時間差、フライングレシーブなどを選手と一緒に開発し、戦術に取り入れたのも松平監督でした。
トランポリンの上でジャンプしながらボールを受け取って投げたり、逆立ち歩きをしたりするという独特なものでした。
当時は「松平サーカス」とも揶揄されても。
松平監督はこのトレーニングが基礎体力づくりとボールさばきの向上に繋がると信じて選手にやり抜かせました。
ただ、エースアタッカーの大古選手だけが逆立ちが出来なかった。
ある時に、
「あと一週間で大古が逆立ち歩き9メートルができなければ、バロセロナオリンピックへは連れて行かない」
と松平監督は選手全員に伝えました。
エースアタッカーの大古を外すことはチームには致命的だとは誰もがわかっていた。
大古は当時を振り返って、
「松平監督に、『大古。デカいだけでは意味がない。ウドの大木になるな。機敏な大男になれ』と言われていた」
と語っています。
実は松平監督も大古を連れていけなければ、自分自身も監督を辞する覚悟でいたそうです。
そこから大古は、皆が寝静まった宿舎を出て、体育館で一人、逆立ちの孤独な練習を始める。
来る日も来る日も、ブルブル震える両手を前に進ませる。
最後の日になっても9メートルは到達できなかった。
松平監督は大古に言い放つ。
「夕飯を食っても夜中0時までは1週間だ」
体育館で、1時間半をかけて大古選手はギリギリ9メートルをやり抜いた。
巨体が体育館で倒れる。
仲間が皆駆け寄って体育館は男たちの男泣きに変わった。
「15メートルだって俺は平気だ」と大古の練習を冷めて見ていた選手も駆け寄り、
「俺の逆立ちよりも、お前の逆立ちは日本一だ。いつも宿舎を抜け出して練習していたものなぁ💦 よくやったなぁ」
バラバラの個は、一つのチームになった。
ミュンヘンで、彼らの男泣きは金メダルへと輝いた。
僕はこういうドラマを知ると、その体育館で「皆で泣きたい〜」と思ってしまいます。
人が感動することがないのは、時代のせいではありません。それに取り組むはずの時間から逃げているのだと思います。
いつの時代に生きても、冷めている人には、人生で泣くような感動には出会えません。
僕は感動のある場所にいたければ、自分も恥じない存在として努力を続けたいと思っています。
僕はオリピックを見るたびに自分に問いかけます。
今日も手を抜かなかったか?
全力で走っているか?
神経症患者がボソッと言う。
「わずか数秒縮めるだけでしょう?」
「たかだか数cmですよね。なんで、そんなことに4年間もかけられるのですか?」
この患者の言う数秒は時計の針が流れるクロノスの時間です。
でも、人には、求めて続けた人だけに訪れるカイロスの時があります。
ある人に出会って恋に落ちる瞬間、何年間も解決できない悩みが雲が晴れるように解決した瞬間など、その人が泣くほどに求めて、続けて、出会った瞬間には、記憶に残る濃密なカイロスの時間が存在します。
前監督の中垣内監督が、世界を旅して世界の監督に言われた。
「俺たちは松平監督に見習って日本の戦術をモデルにした。でも、今の日本は世界から学ぼうとしない」
日本が勝てない理由がわかった中垣内監督は、フィリップ・ブランを2017年にコーチに招いた。そして日本の男子バレーボールを世界2位まで実力をつけさせた。
今回のオリンピックは、そのブラン監督の母国フランスでの戦いです。
彼は言います。
「今回は僕はフランス人ではなく、日本のチームとして戦っている」と…。
彼はこのオリンピックで日本の監督を引退することになっている。
どうか52年ぶりの日本に、カイロスの時間を見せてくれ!
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心理カウンセラー衛藤信之
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