恋愛のゴールは結婚か?
プロコースの恋愛心理学の講座を久しぶりに担当しました。
心理テストを使って、受講生それぞれが、どんな恋に惹かれる傾向にあるのか、人はどうしたら恋に落ちるのか、どうすれば恋が持続するのか、そんなテクニカルな話しは語れても、伝えられなかった何かが僕に残りました。
それは「恋愛のゴールは結婚なのか?」という思いです。
僕の愛する伯母さんは結婚しませんでした。
伯母さんは「お前は男の子だからかな。お前の話は、いつも壮大で聴いていてあきない」と褒めてもらったことがありました。
「私は女子学生だった頃、友達が話す、あの友がどうした、こうしたとかの女同士の話より、兄(僕の伯父)と、その親友の話を聴いているほうがとても心がワクワクして好きだった」と…
「兄の親友の世界を旅した話。空に浮かぶ雲の役割や、宇宙の成り立ち、人間の進化とか、とても話が面白くてね。だから男性で『奴が何を言った』『あの言葉は許せない』という、小さな出来事をネチネチ話している男が小さく見えてね、私好きじゃないの。」
「そのお兄さんの親友は、伯母さんの初恋の人?」当時、学生だった僕は、興味本位で伯母に聴きました。
「好きだったのかなぁ…でも、その人が着ている白が眩しくて…白を思うと、その人を思い出すの…」と彼女はそう言って遠い目をした。「でもね、その人は雪山で亡くなったの。だからかなぁ、真っ白な色を見ると、その人をすごく思い出すのかもしれないね」と伯母は微笑んだ。
そして「若い人の死は悲しいけど、美しくもあると思うのよね」と遠い目をした。
僕は死が美しいなんて思ってもいなかったし、僕は継母が自殺をした経験があるから「死が美しい ⁈ 」と言うと、僕のそんな悲しい思い出を察知したのか「いや、自らの手での死は納得できないけどね。でも、その男の人は、私の中では永遠に若いままなのよ。私はこうして、おばちゃんになって行くけどね。彼は白い青年のまま…」
彼女の中では「白い青年のまま…」が僕の印象に残りました。
老人ホームなどで、ご主人の顔を忘れているのに、初恋の人を熱く語る女性の話を聴いたことがあります。それも一瞬の短い会話のやりとりで「今から特攻隊として戦場に向かいます。もうお会いする事はないですが、最後にお願いがあります。手を握っても良いですか。」と言って軍服姿の手袋を外し、握った手の温もりが老女の中には永遠に残っています。
その戦場に散った人が、誰かと結婚し、年老いた現実の姿を見ることもなく…
もし、恋愛のゴールが結婚ならば、それらの出逢いは意味のない寄り道なのでしょうか…そして、結婚に行き着かなかった恋を「無駄だった」と語る人もいます。僕には「それは悲しい恋愛感だなぁ」と思ってしまう。オセロの最後が黒なら、すべての美しい思い出の白も、すべて黒に変わってしまうように。
恋愛は理性ではコントロールできない分だけ、自分の中にある無意識の世界を知ることが出来ます。だからこそ、感情は揺さぶられ、自分の喜びや悲しみ、嫉妬、隠された感情などを知るには恋愛の心理は、とても大切な手がかりが隠されています。だから、プロコースの恋愛心理で行う心理テストは面白いほどに盛り上がるのです。
ただ僕が一つ言えることは、若い時は「恋愛」はたくさん経験した方が良いと思えるのです。
プラトンは言いました。人間は、元々は男性も女性も一つだった(両性具有)。神の怒りに触れて、二つの性に分かれて「男性」と「女性」が生まれた。だから、分かれた性を人は永遠に探すのだと…
だから、自信のない人は自信のある人に惹かれ、大雑把な人は、整理整頓が得意な人に惹かれ、母親を失った人は、母親を感じる人に惹かれ、父親の愛情に飢えていた少女は、包容力のある年上の男性に惹かれたりします。
もちろん、LGBTの人も、自分にないものをパートナーに求めますから、恋愛は欠けたピースを探す旅なのかもしれません。
ならば、恋愛をする時に、ただ恋するだけではなく、相手の持っている利点を自分の中に取り込む努力をし、いつも外の世界に片割れを求めつづけ、憧れるだけでなく、自分の中に相手の強さ、しなやかさを取り入れることが大切なのです。
自分の中に両性具有の安定した自分を作り上げれば、自分が年齢を重ねた分だけ、人に出会った分だけの深みのある自分になれると思うのです。
そうすると恋愛でも結婚でも、誰かに依存し過ぎて「裏切った」「裏切られた」と大騒ぎする「頼りのない自分」にならないですみます。そんな風に考え、恋の目方は軽くしておかないと、一回ごとに「結婚=成功」「 結婚できない=不成功」と深刻になっていたら、恋愛に対して臆病になり身が持ちません。そして、そんな人には出会いがあっても大切な出会いを発見できません。
また、そんなピースを探す延長線上にある結婚は、相手に依存し「あなた無しでは💦」と、自分自身の永遠にないものを、誰かに求めるだけの結婚は、きっと結婚してからも重い関係になってしまいかねません。もちろん、恋愛だけではなく友情でも師弟関係でも「相手の良いところを自分に取り込む」ように心がけることが、僕は大切だと思っています。そうでないと愛は共依存の関係になり、愛がやがて憎しみに変愛憎劇になりかねません。
そして、何より取り入れたくなるようなステキな恋と出会うことがとても大切なのです。
伯母が白色を見ると「守られている」と思って白が好きなように。
そのキラキラした一瞬が、永遠に生きてゆける大切な財産になる恋を!