応援の舞台裏

      2022/02/22

 世界では今も紛争がもある一方で、平和の祭典のオリンピックがあり、いろんな人々の思惑があります。

 こんな時には心理カウンセラーとして、いろんなこと考えてしまいます。紛争であれオリンピックであれ、人間が関わっているのですから、心の世界が深層心理がからんでいます。

 心理学には「社会的アイデンティティ理論」という考えがあります。自分の所属している集団によっては自分が安定したり、周囲に巻き込まれたりしてしまいます。

 この理論では自分の知っている身内には特別意識を持ちやすく、外の集団や遠い人ほど無関心になりやすいと言われています。

 アニメでも、主人公の仲間たちは細かく性格設定がされて、それぞれに個性的に描かれていますが、敵の集団は、すべて悪いやつの群れとして無関心になってしまいます。難しい言葉でいうと「外集団同質性効果」と呼ばれ、敵の集団は皆、個性のない同一の存在に見えてしまう心理です。ですからシューティング・ゲームでは狙撃される人物に対しては無関心になり、その敵である人物には関心をしめしません。その敵の人物が家庭では「どんな親であるのか」「子どもがいるのか」生活や家族についてなど考えないでいるから反射的に無関心に他人を撃てるのです。

 ドラマでも、トラブルが仲間との間に生じたとしても「俺は信じる、奴は裏切るはずがない!」と仲間を信じ抜こうとします。これが身内びいきと言われる「内集団バイアス」です。でも敵に対しては即座に「許せない💢」となってしまいます。敵は敵です。外の集団に対しては「外集団同質効果」が働いて皆が均一に見えてしまいます。ですから一人ひとりの個性に対しては無関心でいられるのでゲームはスムーズに動くのです。

 今回、女子フィギュアのカミラ・ワリエワ選手のドーピング疑惑についても、ロシア側の選手たち内集団と外集団では完全に意見が分かれました。

 ドーピングでカミラ・ワリエワ選手やその周囲には、世界中から批判が殺到しました。

 羽生結弦くんが尊敬している「皇帝」と呼ばれたプルシェンコは「カミラが歴史上最も優れたスケーターの1人であり、世界中のファンを魅了してきた。スケートを次なる次元に押し上げた存在でもある。カミラが多くのスケートファンを魅了してきたのは偽りないことだ。引き続き彼女の演技に魅了され、憧れ、心動かされたい」とインスタにエールを送りました。

 また、アニメが好きで、日本から秋田犬をもらったザキトワは、自分の後輩にあたるワリエワに対して、ドーピング疑惑が出た際にも「一体何があって、どんな落とし穴があったのかわからない。暗闇に包まれている。謎だらけ」とコメントし「カミラ! 頑張れ! あなたは素晴らしい女の子です」と声援を送った。試合後も「カミラ、私はあなたがこの五輪で、どれほど耐え抜いたか、想像することができません。あなたは強い」と健闘を讃えました。

 ここで想像してみましょう。カミラ・ワリエワ選手が、あなたの家族だとしたら、あなたは今回のことをどう感じたでしょう…

 15才の少女があれだけの重圧を背負い、現地でオリンピック中、疑惑の目を向けられた状態で数々の取材を受け、たび重なる再検査を受け、世界中から批判の言葉や目を向けられたら…

 あなたの大切な人なら、どんな気持ちになるのでしょうか…

 少し立ち止まってみると、違った視点になると思います。

 また、逆に立場が変わって、ドーピング大国と呼ばれるロシアの1選手となれば、人の不寛容のグラデーションは濃くなります。

 まったく違うシチュエーションで、ワリエワ選手がフリーで完璧なパフォーマンスを発揮し、最高得点を得てオリンピック最高得点を叩き出し、その結果、日本の坂本花織選手が4位になりメダルをもらえない状態になれば、ワイドショーだけではなく、あなたの気分も完全に批判に偏ります。

 だから僕は今回のワリエワの結果はよかったのかもしれないとも思っています。ワリエワのためにも、日本のためにも…

 元フィギュアスケート選手の安藤美姫さんが、その身内びいきのバイアスとは違った立場でコメントを語っていました。

 「アスリートとしてドーピングというのは許されないが、今回は持久力を上げるという薬ですけど、ただ持久力が少し上がったからといって、技が成功するっていう競技ではないんですね、ジャンプの技術はワリエワ選手の実力だと思っていますし、小さい頃から努力してきた形が今の技術面になっていると思います。ワリエワ選手もショートプログラムのトリプルアクセルで、全く疲れていないところでミスをしましたし、羽生選手のように氷の溝にひっかかり不運で失敗する可能性もありますし、持久力があるからといってノーミスができるっていう、そういう簡単な競技では、フィギュアスケートはないよっていうところだけは同じアスリートとしては言ってあげられるのかなって…」

 この発言も今回のことを「許せない」と思っている人にとっては、ワリエワ選手やROC側を擁護する発言と受け取って安藤美姫さんは炎上したそうです。

 大衆化した内輪集団からは異物だと思って排除したくなるのでしょう。その結果として安藤美姫さんが今度は叩かれてしまいます。怖い世界です…

 自分が所属しているか、所属いないかで、これほどに人は状況によっては攻撃的になってしまいます。

 内集団バイアスはアメリカとロシアのウクライナ問題にも見え隠れしています。

 また、中国とアメリカの覇権争いや、韓国と日本の領有権問題にも、双方の国民感情にも見受けられます。

 第二次世界大戦中には日本は対戦相手を「鬼畜米英」と呼び、血も涙もない国民だと、女性や子どもに対しても情け容赦のない恐ろしき国民だと。捏造した情報を流し続けました。それが沖縄での悲劇へとつながりました。洞窟から出てくることを呼びかけるアメリカ兵に対して、若い女子学生は自決(自殺)への悲劇を生んだのです。

 また、アメリカでも日本に対して、日本兵は殺しても殺しても竹槍を持って向かってくることに恐怖を感じていました。

 ですから太平洋第3艦隊司令長官ウィリアム・ハルゼーが「日本人などという人種は、猿以下の動物と同程度の能力しかない。奴らは死ぬことを恐れないのは、猿のような本能しか持ち合わせていないからだ。この戦争に勝つにはジャップを殺せ、もっともっとジャップを殺せ」と言っています。

 僕たちの歴史を振り返っても、身内集団と外集団に分けることで、自分達は正義、相手は悪と「内集団バイアス」や「外集団同質効果」がかかってしまいます。仲間意識も大切ですが、外から自分の言動や行動を冷静に見つめるクールな視点を持ちたいものですね。

 オリンピックが終わり、僕たちは今一度、個人レベルから国家まで自分の日々の言動に気をつけたいものだと感じました。

 それが戦争への抑止力になるのだと心理カウンセラーとして信じています。

 正しいという字は一本線を横に引いて止まれと書きます。正しいと思う時には一旦、立ち止まろう!という字ですよね。

 すべての国の人びとの幸せを祈りたいものです!


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心理カウンセラー衛藤信之
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