無声呼人

      2019/04/21

 子どもの不登校や引きこもり、家庭内暴力。そこまでいかなくても、子どもの反抗で手を焼いて相談に来られる家族に多いのは、こちらが子どもの日常の様子を聴いた時に、当の子どもの父親は「自分は、こんな大きな立場の仕事をしている」とか「自分の友人の中には、心理学の有名な大学教授がいる」とか、一生懸命に自分の社会的なポジションを語らないと会話が進まないご両親がいます。

 そこで、僕は「お父さんの立場よりも、僕は子どもさんのことを聴きたいのです。来られて15分、子どもに向けるべき大切なカウンセリングの時間を、自分の社会的なポジションを語ることに使われたのですよ。お父さんの地位や立場よりも、その時間を、子どもの心に意識をむけませんか ‼︎」と指摘することになる。

 このお父さんには、自分がどう思われるか、自分がどう尊敬されるかしか、関心がない。何よりも、それが優先課題なのです。それほどに子どもの心には無関心なのです。関心ごとは、子どもの学校復帰と、子どもの学歴だけなのです。それがこのお父さんの重要課題なのです。だから、子どもそのものに目を向けておらず、子どもが自分の立場を揺るがすことがないかが中心になってしまっている。

 人の集まりに参加する時にも、誰か仲介者がいて、前置きに「こんな立場の方である」とか「こんな本を書いている」というバックボーンを話してもらわないと、集団の中にとけこめない人がいます。

 自分自身で出会うより、社会的なバックボーンという、盾や鎧がないと人と出会えない。

 「男は40歳を過ぎたら自分の顔に責任を持て」と言われます。

 もともとはリンカーンの言葉だと言われています。Every man over forty is responsible for his face. ある年令を越すと、顔の造りのことではなく、その顔には、その人の人生、生き方、考え方が、笑顔が刻み込まれているということなのです。

 日々、イライラしていると、眉間にはいつしかシワがよります。いつも、冷たく人を横目で見てニヒルに笑っていると、表情のバランスがおかしくなるかもしれません。

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     写真は(富士通のグランノートより)

 ステキな表情は、人と人との出会いの中で身につくのです。インドのジャングルで、狼に育てられたと思われる狼少女は、最後まで人間のように笑うことはできなかったそうです。人との間で表情は生まれるのです。
 
 ブログやフェイスブック、メールでは雄弁なのに、出会ってみると目も合わせず、会話の内容も面白くないという人がいます。

 そういう人は、仮想空間のコミュニケーションは得意なのですが、現実のリアルなコミュニケーションでは、自信がなく、積極的に人と関わることが出来ません。

 どんなにネットサーフィンし、多くの情報を知っていても、最後の勝負どころは、現実の人間空間です。僕は教室でも「リアルなコミュニケーション能力を身につけよう!」と呼びかけています。だから、僕は教室での生きた関係性を大切にしています。

 ネットや本で、何でも知ってるクン、物を何でも持ってるクンよりも、人生の成功は、どんな時でも、誰からも愛されるリアルなコミュニケーション能力です。それこそが、誰からも一生涯、奪われない財産になります。

 自分に自信がない人は、社会的地位や名誉、成功を求めて、その鎧に逃げ込もうとします。そう、社会的名声で自分自身を補おうとするのです。生身の自分自身では不安を感じるので、付属品(地位、金銭)で自分をカモフラージュすることに一生をついやそうとします。

 だから、地位や金銭がなければ、誰からも相手にされない、よって、それにしがみつこうとします。

 成功者と言われれる人の中には、人間として品格が感じられず、取り巻きやお金、立場の話ばかりをする鼻息の荒い人がいます。
 そんな人に出会うと僕は「この方向だけは、目指したくないなぁ」と思ってしまいます。

 このような人は、人生の方向性がかたよっているからでしょうか、どこかにシワ寄せがあります。社会的に名声があっても、家族から嫌われていたり、部下からは慕われてはいない。そんな人生をやはり生きています。

 自分自身の心の内を鍛えるか、自分自身の外の付属品を集めるかに、人生は分かれます。

 人に会った時の笑顔、優しい聴き方、穏やかな語り口調、トラブルに見舞われた時のほどこし方など、その人の笑顔にステキな残り香が漂います。

 内に魅力がある人は、どこに行っても必要とされ、尊敬され、笑顔に囲まれます。

 お姉さん夫婦の家に、弟夫婦の奥さんから電話が入ってくる。
 「そろそろ、お爺ちゃんを、こちらに来させてくださいませんか。お姉さんのとこばかりだと、こちらが淋しいです。いつ、こちらに来てくれますか? お爺さんの話はとても、ためになるし、いつも笑顔だから、皆が幸せになるんですから…」「そうですか(残念そうに)やっと、お兄さん夫婦のところから、我が家に来てくれて半年しかたっていないのに…」このようなお爺ちゃんは、誰からも必要とされる人なのです。

 無声呼人(むせいこじん)という言葉があります。ペットボトルのお茶「伊右衛門」は、福寿園の創業者の名前が付けられています。その福寿園に代々伝わる家訓が無声呼人です。いつも声高らかに、自分をアピールしなくても、いつも笑顔で人に喜ばれる生活をしていると、何も持ってはいなくても、多くの人々は、その人の人格に集まってくるのです。

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 そういう人に私はなりたい!(宮沢賢治ばりに)







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