それほど、孤独でもないのだけど…

      2019/04/21

 完全な世界。

 完全な世界など、どこにもない。これはべつにニヒリズムの虚無感で言っているのではありません。

 ある人が「私は孤独だ」と言った、だから、いろんなセミナーなどに参加してトラウマや無意識にある満たされない感情を取り除いて努力をしているのだと…

 僕は思う…人は独りで生まれ、独りでこの世界を去って逝くと…究極は、人は孤独なのだと。

 人は、孤独を意識し始めれば、誰もが孤独の深さを感じるものです。

 もちろん、孤独でない瞬間もあります。

 仲間と語り合っている瞬間、誰かと愛し合っている瞬間、家族と笑い合っている瞬間、旅で他人の親切にふれた瞬間、成しとげた仕事が成功した瞬間、友と酒をくみ交わす瞬間、そう、「今、ここ」の瞬間になら「完全な世界」と感じることはある。

 僕は孤独を訴える人に言った。

 結婚したからと言って孤独はなくなりはしないし、孤独の不安は完全に消え失せることはない。

 人は将来に、完全に幸せになることを願って、未来に幸せをお預けにする。そして「今、ここ」の幸せを味合わないで、未来に幸せになろうとする。

 僕は「今、ここ」の幸せを楽しめない人は、未来も幸せになれないと思っている。

 いつか、結婚さえすれば、子供ができれば、有名になれば、お金持ちになればと、そうなりさえすれば、永遠の幸せが約束されたと思っている。

 でも、結婚したらしたで、相手を失うことの怖さ、孤独への不安はなくならない。

 子供ができたら、子供がケガをしないか、不合格になることはないかと…
 出世したら、失脚することの不安、判断を誤ることはないかと…
 お金持ちになれば、そのお金を失いはしないか、奪われることはないかと…

 確実なのは「今、ここ」の瞬間の中に、探しさえすればパーフェクト・ワールドは隠れているのです。もう、戻って来ない一瞬、一瞬に…

 人はそれを味合わないで、どこかにあるパーフェクト・ワールドを求めて「今 ここ」を見ていない。

 悩んでいる今の自分も、二度とは戻らないのに「今、ここ」の自分なのに。

 その相談者は、完璧な孤独のない自分を求め、お金を使い、時間を使い、孤独がなくなると言う催眠や、無意識にある孤独のトラウマが取れるというセミナーに通い、より孤独を深めているように見える。

 ギリシア神話にある武勇のヘラクレスの話。

 彼がある時に道で「モヤモヤ」という石につまずいた。彼は「この野郎っ!」とモヤモヤを足で蹴ってみた。するとそれは、ひと回り大きくなった。驚いたヘラクレスは、さらにキックをくり出した。

 すると、モヤモヤはヘラクレスと同じくらいの大きさになった。不安にかられた武勇の神ヘラクレスは、剣をぬき出して「この化け物め!」と、さらにモヤモヤに攻撃をくり返した。

 やがて、そのモヤモヤはヘラクレスを圧倒するくらいに巨大な存在になった。それを最初から見ていた女神アテナがヘラクレスに向かって大声で叫んだ。

 「私は最初から見ていましたが、あなたが攻撃するほどに、その化け物は大きくなっていますわよ。その化け物が何かをしたのですか?関わらないでいたほうが良いのでは?」

 そう言われて、ヘラクレスは、剣をサヤに収め、その巨大になったモヤモヤの化け物を無視して、歩き始めた。

 すると、そのモヤモヤは最初にあった、石ころのように小さくなっていった。

 人はこのように、何かの悩みに突き当たると、これは無意識のトラウマだとか、これを取り去らないと、前に進めないと思ってしまう。

 でも、僕は思っている。人はやはり生きることは孤独なのだと…だから「人生には孤独は付きものだ」と、引き受けて生きてゆく強さを持てれば、ほんの少しの日常の中にある、ありふれた「ふれあい」に感謝ができる。

 「今、ここ」の、ふれあいの瞬間を味わいつくせるのだと、僕は思っています。

 そして、誰しもが、そんな完全ではないけれども、捨てたものでもない人生を生きているのだと思えば、人は究極の孤独ではなくなる。

 そう「自分だけが孤独ではないか」と思う病が、よけいに誰かを孤独にしてしまう。

 話は変わるが、僕の自宅は山の斜面にある。

photo:01

 眼下に巨大な都会の街のネオンが広がっている。

 この街にある灯りの、ひとつ、ひとつに、幸せと孤独が、同じくらいに存在しています。

photo:02

 そして、人は「今、ここ」にある幸せに感謝し、その一瞬を心に、とどめることができれば、その一瞬の中に「永遠の幸せ」があるのだ思う。

 人は孤独だけど、その孤独を誰しも抱えながら「今、ここ」に生きている。
 そんな人々たちが、肩を寄りそいながら「この瞬間」も、人びとは生きている。だから、それほど人は孤独ではないのですよ。




日本メンタルヘルス協会:衛藤信之のつぶやき




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