ツナグ

      2019/04/21

 僕が話す話には、亡くなった人々が登場します。
 このブログにも、過去にいく度となく亡くなった人からのエピソードを書いた記憶があります。

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 ご主人が亡くなってから「うるさかったイビキが懐かしい」という奥さん。

 妻が亡くなって、自分が妻の代わりに子どものお弁当を作ったり、家事をするようになって、いかに妻の仕事が偉大であったかと語るご主人。

 僕の愛した二番目の母の自殺。それが、キッカケで僕がカウンセラーを目指したこと…

 そして、両親が離婚して生活を一緒にすることはなかった産みの母親が、僕の息子と同じ肝臓にガンを発症し「孫のガンを持って行けるから嬉しいんだよ。だからね、後悔はないの…」と語った産みの母。その母が、待っていたように、僕の誕生日に亡くなったこと…

 そして、小児がん病棟での、僕の小さな、お友達たちの話…

 小さな俊くんは最後は、抗がん剤が効かなくなって、愛くるしかったシュンシュンの顔の形は変わっていました。

 親たちは、病室内の壁に掛かった鏡をあわてて取り外しました。 シュンシュンが自分の顔を鏡で見て「お友達と、学校に行く」という希望を失わないように。

 でも、ある日、そんなことを知らなかった若い看護師の胸にキティちゃんの手鏡があった。

 それを、見つけたシュンシュンは「その鏡を見せて」と看護師から鏡を受け取った。変わりはてた自分の顔…

 シュンシュンの顔の奥にあったガンが肥大し、彼の目は斜視になり、自分の顔を鏡で正面から見ることはできなくなっていました。

 シュンシュンは、その現実を見つめた後に、看護師にこう語りました。
 「もうすぐママが売店から僕のジュースを買って帰ってくるの。ママが帰って来たらね、僕が鏡を見たのはママにナイショね」と借りた鏡を看護師に手渡した。

 「どうして?」と問いかける看護師に「ママが悲しむから」と告げた…

 シュンシュンの幼い心は、病気により、研ぎ澄まされ、清く、すべてを達観した老賢人のように、鏡を大人たちが外したワケも、母が夕方に、早々と病室のカーテンを閉じ、窓ガラスが鏡の代わりになることを嫌った理由も、一瞬に理解したのでしょう。

 そう、すべては「シュンシュンが自分の顔を見ないようにするための行動だ」と…彼は悟ったに違いありません。

 自分の顔が変わりはててしまった絶望と恐怖よりも、その大人たちの優しい秘密を、彼は守ろうとしたのです。

 それがシュンシュンが「ママに僕が鏡を見たのはナイショね」と言った言葉に、すべて込められていました。

 そのシュンシュンは、お母さんの腕の中で、一人で旅立ちました。

 彼は「僕ね、大人になりたいの。パパみたいに」と言う願いだけを頼りに治療を受けていた、苦しい吐息の中で…

 彼の望みは、僕たちが何気なく生きている日常の「今日」を、ただ生きたかっただけ…

 彼の話は、僕たち大人たちに突きつけられる。

 彼の生きたかった「今日」という夢の一日を、僕たち大人たちはシッカリ味わって生きているのか?

 講演では、俊くんのストーリーで、多くの聴衆が涙を流し、自分の生活に思いをはせる…

 大きくなってくれた我が子が「ただ生きていることだけで幸せなのだ」と感謝する人。

 今日、叱った子供の泣き顔を思い出して、怒り過ぎたことを後悔する人。

 若者が「なんか退屈だ~」と言いながら「今日」という日を、ボーッと過ごしている自分自身を省みて。

 最近、冷たくしてきた両親に対して、育ててくれたことに、感謝していなかったことに気づく聴衆もいます。

 日々、部下を怒鳴り飛ばしている上司が、怒鳴りつけている部下にも、優しい親があり、その親たちからすれば「わが子を大切にしてもらいたいだろうなぁ」と、上に立つ責任を思いだす人もいるのでしょう。

 それぞれが、何かに気づかされる死のストーリー。

 インディアンは言いました。
 「命は終わらない、誰かの生き様は、生きている人々を応援するパワーストーリーになる」と。

 そう、死者にとって、死はもう影響力も脅威にもならない。死んだ者の物語は、生きている人々に何かを学ばせる物語になると…

 先日、「ツナグ」という映画を観に行った。前評判も知らず、ただ、観る映画がなかったから観た映画だった。
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 僕は映画館の座席をしばらく立てなかった…

 そこに出てくる言葉が、とてもステキで、優しくて、僕は大ファンになった。

 「死者たちへの解釈は、生きている者たちの勝手な解釈や都合なのかも知れない。でも、死者たちの物語は、生きている者たちを生かすものであって欲しい…」と主人公の青年が語る。

 原作の直木賞作家の辻村深月さんは、映画を観て「微妙なニュアンスも、全部丁重に拾っていただいたことに驚き、感謝しました」と映画関係者に感謝を伝えたと言います。

 僕も祖母に育てられたので、主人公の松坂桃李くんと、祖母の樹木希林さんのやり取りに、とても共感をおぼえ、懐かしさを感じました。

 僕が大分に帰った時に、布団の中から手招きして、僕の耳もとに、そっと「もう、おばあちゃんに何かあっても、あなたには大切な仕事があるやけん。もう帰ってこんでもイイんよ。ノブくん、シッカリと頑張りなさい」と言った祖母。

 まるで、自分が最後の再会だと分かっていたような、貴女からの最後の言葉でした…

 「はい、孫は今日も頑張って、愛を伝えますよ!」

 おばあちゃん、つながっているからね。ラブラブ

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