真実の愛の証し…
2019/04/21
二人は愛しあい、僕と妹が生まれた。二人が愛し合った最高の瞬間に、僕と妹が授かった。
両親は別れてしまったけど、輝やいていた二人の季節は、確かにあったのだから。
その輝いた季節に僕たちの命が宿ったのが僕たちの誇り!
今、妹は大分と僕は大阪と離れて暮らしているけれど、僕たち兄妹は、この世に存在し生きている。
母は、大人になった僕に再会してから、離れてしまった娘、そう妹との再会を心の中で切望していたと思う。
僕が「会いたいかい」と訊ねると、遠慮がちに「いつか、逢えるなら、逢いたい…」と遠くの娘を思いやるように。
でも「お前にムリをさせたくはないからと…逢えるならね…いつか」と、それを僕に強要しない母でした。
育ててくれた祖母と父に遠慮して「私は会わない」と言い切った、妹の真っ直ぐさ…その気づかいさ。
あなた達、母娘は似ている。それを知っているのは僕だけでした。
僕の何気ない会話に登場する、妹の近況を聞くたびに、嬉しそうに耳を傾ける母。
僕からプレゼントした成人式の妹の写真。あなたの宝物…
でも、過ぎ去った年月、離れて暮らした申し訳なさから、僕に会うたびに「博子は、元気にしているかい?」とだけ遠慮しがちに確認したら、僕から彼女の話題が出ることを静かに待っていたのでしょ、あなたは…。
それが、僕には分かっているから、妹のことが伝わる話題を、僕は何気なく会話の中に織り込ませた、とっても、さり気なく。
僕が妹の話を始めると、まるで葉っぱから、しずくが落ちるのを待ちわびてたかのように、イメージの中で妹の姿を追っかけようとする母。
今でも、忘れられない、あなたの顔があります。
僕が「母さんと博子は、とても似ているよ」と何気なく言った時…母の優しい微笑みと、幸せそうな顔は今でも鮮明に覚えています。
あの瞬間に、あなたは離れてはいても、自分の分身が、この世界のどこかに生きていることの幸せを噛みしめたのでしょうね。
妹をこの世に誕生させた誇りと強さを感じられる優しい微笑みでした。
あなたの末期のガンがいよいよとなった時、僕は妹に頼みました。「母さんに会ってくれないか」と…
僕は「お前が、いつか子供を持ち、その子が病気になって、母親に自分の幼い時のことを聞いておけばよかったと後悔しないか? お前がどんな赤ちゃんだったのか? お前がいつ水疱瘡になったのか?ハシカをしたのか?お前をお腹に授かった時に、どんな気持ちだったのか? それから、それから…」
最後には妹は「会う」と言ってくれました。
それを、あわてて病床のあなたに伝えた時、あなたは、泣きましたね。
「ありがとう、ありがとう…」消え入りそうな声で、次に母から出てきた言葉に、僕は耳を疑いました。
「のぶゆき、ありがとう。でも、その博子の言葉で充分ありがたい…でも、逢うことはできない」
「どうして…」と訊ねる僕に。
「苦しいほど博子に逢いたいよ…あの子に…。 のぶゆき、私に未来があるならどんなことをしても、あの娘に逢いたいの。でも、博子に再会してもね、私は死ぬの」
「すぐに会えなくなるの…そしたら、博子をまた悲しませ、逢ったことであの子の周囲に気をつかわせて、あの子を苦しめるだけなの…」
そして、大粒の涙を流して、あなたは号泣しましたね。
強かったあなたが…。
僕の息子が小児ガンが完治した時に発見された、あなたのガンでした。
「孫を救ってもらったから、母さんが同じガンになって、あの世に、孫のガンを持っていけるだけでも満足だから…」と、言ったあなたが、はじめて「生きていたい!」と思った瞬間だったのでしょう。
自分の「ただ逢いたいの!」と思うエゴから抜けた、真の愛を、僕はあなたから教わりました。
自分が「逢いたい‼」と自己の欲求からの再会の希求なら、あなたは、きっと逢ったのでしょう。
でも、あなたは「逢いたい」気持ちを封印して、会わない、逢えない、とあの瞬間に娘の生活を思いやった。
騒がしい親子愛が氾濫する中で、僕は相手を静かに思いやる愛を、あなたから学びました。
その後、彼女は結婚して幸せな日々を暮らしています。あなたの優しい思いに照らされながら。
僕だけが知っている。母と娘は、とても似ている…
僕と妹を育ててくれた祖母の三回忌に、お父さんが、あなたの墓に見舞ってくれました。
「あいつにツライ思いをさせた」と言う父の横で、僕には、あなたの声が聞こえて来ました。
「とんでもない。あなたは二人を見捨てずに育ててくれました…」と、あの僕の自慢の微笑みで…
天から見てましたか、お母さん。
父さんが、あなたの実家まで運転してくれたのですよ。
あの、あなた達の愛し合った季節に、二人の愛を確かめるために、あなたへの逢いたさに通い慣れた、あの道を…
美しい季節は、誰にもある。
時がいくら過ぎ去っても…