「ママは私のこと好きじゃないんだよね」娘の微笑みと、心の傷。 |
東京校 朝貝 智香さん(35歳 女性)
《I love you, because you are you.》 一見簡単な言葉ですが、この言葉のように私が長女をありのまま愛せるようになるには随分長い時間がかかりました。 私は結婚2年目に主人の仕事の関係でイギリスのバーミンガムに引越しました。その時、妊娠7か月。出産については「どうにかなる」と気楽に考えていました。実際、安産で長女が生まれ、日本から持って行った育児書を読みながら子育てを始めました。 イギリス駐在は突然決まり、主人は先に1人で渡英しました。いきなり別居生活が始まり、私は実家やイギリスに送る荷物をまとめました。 出産後は長女が病気で入院したり、授乳で睡眠時間が減ったり、寝不足から主人とケンカすることが増えたりと生活が一変しました。そして、しっかり鬱になってしまいました。 長女の泣き声が嫌で嫌で、キッチンに1人逃げ込んで耳を塞いでいたこともあります。日曜日の昼間、主人が長女を抱っこしたままソファで眠ってしまうと、自分の居場所がなくなった気がして、家を出て公園のベンチで泣き、夕方私がいないことに気づいた主人が車で捜しに来たこともあります。
私の住んだ町には日本人が1人もいませんでした。主人は会社で唯一の日本人だったので、仕事で遠方に住む日本人と会うことはあっても、近所に住んでいる日本人の知り合いは誰もいませんでした。私が日本語で愚痴を言える相手は主人だけだったのです。けれど、慣れないイギリスでの仕事に精一杯の主人は、毎日毎日繰り返される私の不平、不満、ため息を1人では受け止めきれず、「もうやめてくれ!」と声を荒げて拒みました。それは仕方のないことでした。でも自分の言葉で悩みや愚痴を言える相手がいないのはとても辛く、「日本で子育てしていたら、こんなことにはなっていなかったはずなのに」と後ろ向きな思いばかり浮かびました。
自分が産んだ娘をかわいいと思えず、「この子がいなかったら…」と思うこともありました。もちろん、常に後ろ向きなことを考えていたわけではなく、週末に家族でドライブすれば楽しい気持ちになるし、お買い物をすれば笑顔になりました。そして週末が終わり、長女と自分2人きりの時間が多くなると、また鬱が強まるのです。 私の鬱の度合いが強いことを心配し、イギリス人のカウンセラーが近所に住む日本人を探し始めました。そして幸いにも、隣町に日本人のコミュニティーがあることがわかり、少しずつ日本人の友達ができ始めました。
しかし、長女は1歳になる頃から極度の人見知りになり、私から少しでも離れると泣き叫ぶようになりました。主人にさえ抱っこをさせないほどでした。さらに食物アレルギーが発覚し、日本から食材を取り寄せ、外出時には離乳食とおやつを作って持っていかなければなりません。 つまり、私が1人になる時間はほとんどなく、結婚前からの趣味だった旅行をする際にも炊飯器を持参し、旅行中でも毎日食事を作らなければならなかったのです。 「なんで私だけ?」「なんで長女はアレルギーなの?」「なんで私がこんな目に遭わなければいけないの?」と答えのない疑問を繰り返しては涙を流しました。
でも今思えば、イギリスではたくさんの人たちの愛に支えられていました。日本から会いに来てくれた家族や電話をくれた友達、カウンセラーからの連絡で急いで私に会いに来てくれた日本人の友達や、アレルギーのある娘のために毎回フルーツを用意してお家に誘ってくれた友達、会うたびに声をかけて抱きしめてくれた近所のイギリス人のおばあちゃん、分かりやすい英語で話してくれた診療所や病院の先生方、私たち親子によく声をかけてくれた学校の先生やママ達。散歩中に会い挨拶を交わした近所の人たち。 たくさんの人たちが私たちの存在を受け入れ、声をかけ、笑顔を引き出してくれました。当時の私が、彼らの優しさにきちんと感謝を伝えられていたのかを考えると少し不安になります。
長女が2歳4か月の時に帰国しました。日本には食物アレルギーに対応した食材がたくさんあります。愚痴を言い合える友達もたくさんいます。長女を預かってくれる両親もいます。何もかもうまくいくように思えました。
ところが、日本に帰ってきた私は再び欠けている部分ばかりを見つけ気にするようになりました。 新居は主人の実家がある街でした。主人には親しんだ街も私にとっては初めての場所。知り合いもいません。主人の口から知らないお店や人の名前が出るたびに悲しくなり、毎晩1人で泣きました。また、イギリスで長女をかわいいと思えなかった頃の気持ちがなかなか拭えず、抱きつかれると鳥肌が立ち、言うことを聞かないと激しい怒りをぶつけました。
そんな長女が5歳になった時です。 「ママ、私のこと好き?」
何度もそう尋ねるようになりました。その問いかけに私は「うーん…。どうだろうね」と曖昧に笑って返しました。時には、あまりのしつこさに「好きじゃないよ」と冷たく言い放ったこともあります。長女は「大好きだよ」と言ってほしかったのでしょう。しかし当時の私はそう言ってあげられなかったのです。
お喋りが得意で読書好き。幼稚園ではしっかり者で通っている長女ですが、私にとっては途切れないほどのお喋りがうっとうしく、何度注意しても直らない食事のマナーや大人の会話に割り込む行為など、長女の欠けているところばかりが見えて、私は長女と一緒にいることに苦痛を感じていました。
「ママは私のこと好きじゃないんだよね。私知ってるよ。でも私にはパパがいるからいいんだ。」 娘はそう言いながらニッコリと微笑みました。
「なんでそこで笑うんだろう」と気に障り、「私がいなくてもこの子は平気なんだ」と思い、私は自分を求めてくれる当時1歳の次女に愛情をいっぱい注ぎました。 それでも時折、「このままでは、長女の心に深い傷が残ってしまうかもしれない」と考えることがありました。
ある日のお風呂の時間、長女が主人に、自分が怒られてばかりいること、自分は何もできない人間だと涙ながらに訴えたことから、主人が私に怒鳴りました。 「長女が自信をなくして泣いている。お前がそうしたんだ!」 ふだん温厚な主人が顔を赤くしていました。私はその言葉に反論しました。 「あなたは毎日仕事とはいえ外に行き、同僚と会話できる。好きな時にコーヒーを飲むこともできる。ずっと子ども中心の生活を続けなければいけない私の気持ちが分かる?アレルギーのせいで気晴らしの外食さえできないのよ。全部私のせいにしないで!」
このことがきっかけになり家出もしました。家出するにも子ども2人を連れている自分が悲しく思えました。主人とは分かり合えない。もう離婚するしかない…。そう思いました。
しかし、2日後に迎えに来た主人と、初めてゆっくりお互いの気持ちを伝えあうことができたのです。口下手な主人から「イギリスで出産し、子育てをした、もかちゃん(私のことです)はよく頑張ったと思う」、「この街は自分にとっては育った場所だけど、もかちゃんにとっては誰も知らない場所だから、寂しい思いをさせてしまっていると思う」と言われました。全部初耳でした。
私も、もし自分の心が強かったら、イギリス滞在中、もっと楽しく生活できたのではないかと思っていること、長女に優しく接したくてもどうしたらいいのか分からないこと、けれど、このままではいけないと思っていることなどを伝えました。 そして主人と相談し、日本メンタルヘルス協会の体験講座を受け、ここで心理学を学べば何かが変わるかもしれないと受講することに決めました。
Iメッセージの講座を受講して数日後、長女が再び尋ねました。 「ママ、私のこと好き?」
その時「今しかない。今を逃すと一生後悔する」と思ったことを覚えています。 私は言葉を選びながら伝えました。
「ママは心の病気なの。だから好きって言えないことが多いけど、本当は違うの。 本当はあなたのこと大好きなの。それを忘れないで。もし、またママがあなたのことを好きって言えなかったら、その時は「ママの心は今、病気なんだ」って思ってね。」
この時はこれが精一杯でした。でも素直に言葉が出てきたことへの驚きで私は涙が溢れました。そして目の前の長女も泣いていました。 ああ、この子はずっと我慢していたんだ。「私のこと好きじゃないの知ってるよ」と笑っていたのは無理していたんだな、と気がつきました。5歳の子どもが作り笑いをしていたのです。自分はひどい母親だと思うと同時に、私はこの子にきちんと愛情を示していこうと心に誓いました。
今まで欠けているところを見つけては叱ることが多かったので、とにかく小さなことでも「ありがとう。助かるよ」「それ嬉しいな」と伝えることから始めました。 そして、夜眠っている長女の頭をなでて「大好きだよ」と口に出して言います。行動療法です。それを繰り返しているうちに自然と手をつなげるようになり、長女が「ママ好き」と言ってくれるようになりました。
日本メンタルヘルス協会の講座を受講し始めてから1年が経ちます。 いまだに長女のことを感情で叱ってしまうことはあります。けれど叱った後に頭をなでたり、長女の言い分を聞くようになりました。私が少し変わったからでしょうか。今では長女の口から「私のこと好き?」と聞くことは全くありません。
衛藤先生に出会えて本当によかったです。 衛藤先生の講座で何度も泣いて笑って元気になりました。 今、6歳の長女が中学生になったら、一緒に受講しようと話しています。 日本メンタルヘルス協会との出会いに心から感謝します。 ありがとうございました。
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~受講生のレポートより抜粋~ |
紹介スタッフ:吉原 |
私も異国で「孤独」を感じた一人でした。単身イギリスへ渡り、2年間ほど生活した経験があります。 私は「一人だから感じる孤独」朝貝さんは「一人じゃないのに感じる孤独」だったのかもしれないと思いました。 私は単身だったとはいえ、行きたくて渡英したので、「孤独」は覚悟をしていました。 ただ、朝貝さんは妊娠7ヶ月の身で突然の異国での生活、そして出産・子育て。 どれだけの不安と孤独の中で過ごされたか・・・・・ レポートを読んで私が感じた以上に大きいものだったと思います。
私はメンタルの講座を受講した後に、渡英した事は幸いでした。
「受講する前だったら、帰国してるだろうなぁ・・・・。」 と思った事も何度かあります。
孤独・言葉の壁・習慣の違い・価値観の相違etc、 旅行とは違い、生活するとなるといろんな問題が発生しました。 でも、受講後だったからこそ、 充実した2年間を過ごせたと言っていいかもしれません。
衛藤先生からの「せっかく自分の時間とお金を使ってその場所にいるのなら、 悩んで過ごすより、今その瞬間を楽しんで、 その場所でしかできないことをたくさん経験して帰って来てほしい。」 という言葉にも何度も助けられた事を覚えています。
会社で唯一の日本人だったご主人も、 朝貝さんだけになついた娘さんも、朝貝さんと同じように 「一人じゃないのに感じる孤独」とたたかい、 乗り越えて今を大切に過ごされているように思います。
自分の気持ちをIメッセージで伝えること、簡単なようで身近な家族には難しいです。 家族だから言わなくても分かってくれるという甘えの気持ちから、すれ違うこともあります。 近くにいてくれる人にこそ、自分の気持ちを伝える大切さをメンタルの講座を通して気付き、 そして朝貝さんのレポートで、Iメッセージで伝えるという事が 本当の心からのコニュミケーションだという事を改めて感じました。
今、朝貝さんのご家庭には、【I love you, because you are you.】の心があふれているのではないでしょうか。先日、朝貝さんにお電話させていただいた時にそう感じました。 電話越しに聞こえてくる娘さんの声の中で、キラキラした朝貝さんの声が印象的でした。 「人生に無駄な事は一つもない」 衛藤先生がよく言われる言葉です。本当にそうです。
突然のイギリスでの生活も、帰国後も続いた知らない街での生活も、娘さんの食物アレルギーも、 朝貝さんがメンタルに出会った事も、偶然ではなくすべては今につながる為の必然な事だったんですね。 私も、これから自分に起こるであろういろんな事から目をそらさず、 朝貝さんのように未来につなげて行こうと思います! 素敵なレポートありがとうございました!
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